銀座ネットワークで歌を歌ったクジラ

大原まり子

言葉をしゃべり何でも知っていてしかも、宇宙を飛んで旅するクジラに出会った主人公。
少年から大人になりつつある多感な時に出会った、ファンタジックで才知と優しさあふれる大きな存在に魅了される少年の心を細やかに描きだす。
表題の作品はじめ全6編からなる短編集。

ああ。これなら読める。

設定は現実の世界の上にはないが、絵本の世界のようにファンタジックで夢と哀愁と現実世界への皮肉が漂う世界。
主人公の心境を細やかに解説してくれていて(私にはどうもこの視点が、非現実世界の描写を読み解く上で必要らしい)、とっつきやすい。

というわけで、現在大原まり子の作品を攻略中。

第三次世界大戦秘史

J.G.バラード著 飯田隆昭

近未来を舞台に著者のイメージを膨らませた世界を描く、14編からなる短編集。

うーん。
これがSFなのだろうか?
(私はSF初心者)
いや。「ソラリス」を読んだときはこうは感じなかった。

どの作品も、やや設定がいきすぎている気がする。
ウォー・フィーバーはまだ面白かったかな。
ただ、全体的に描かれている世界が極端で、精神錯乱の一歩手前の倒錯した世界を次々と目のまえに提示されるのは、どうも後味がわるい。
(これは、椎間板ヘルニアの治療の腰牽引のときに暇つぶしに読んだ本だから、というわけではなさそうだ。)

いま読んでいる大原まり子の世界のほうがまだ、明るく元気な想像世界という気がする。

来週あたりに大原まり子の感想を書く予定。

マンスフィールド・パーク

ジェーン・オースティン著 大島一彦訳「マンスフィールドパーク」。

マンスフィールドパークに住む裕福なバートラム家に引き取られたファニーの成長と、彼女と彼女をめぐる人々の人間模様を描く。

ジェーン・オースティン後期の傑作といわれる本作品。
彼女の作品の中でも、より風刺と皮肉がきいているように思えた。
また、ファニー以外の登場人物の視点で描かれることが多いのもこの作品の特徴か。
そのおかげで、登場人物のもつ人格的な弱さや愚かさがより際だってみえる。

他の作品もそうであったが、少女のための道徳教本という印象から抜けきれなかったが、それでも、次の展開を予想しながら次々と先を読み進めたくなるから不思議。

これでジェーン・オースティンはすべて読んだ。
次は何を読もうかな。

ふにゅう

川端裕人著「ふにゅう」。

仕事と育児の両立をはかる現代の子育て風景を、父の視点から描いた5編の短編からなる。
仕事に燃える妻にかわり育児休暇をとり妻にかわって父の乳なる「ふにゅう」を愛娘に与えたいと切望する父、妻の出産におびえる父、妻の長期不在の間ふたりの幼い我が子を抱えて奮戦する父などそれぞれの子育て事情を描く。

べたべたしすぎず、さらりとユーモアまじえて描写している文体に好感。

いやー。実際のところ身につまされる話ばかりで。
是非武典さんには全編読んでほしい一冊。もちろん、武典さんだけでなく、仕事子育てに頑張るお父さん・お母さんに。
ここに描かれている風景は、いまでも必ずしも「当たり前」ではないと思うが、都会を中心に似たような風景が展開されている場があるのも、事実だとおもう。

うちも私が一年間の育児休暇後に絵理子を保育園に預け、仕事復帰する予定なので。
お迎えなどきっと武典さんと分担していく部分は多いし、私の出張などで武典さんにまかせて外泊せねばならないところもあると思われるし。

絵理子が産まれる前に保育園に見学にいったときは「来年4月からは預けて働く。」と考えていたのだが、いざこのたよりなげな生き物が産まれてみると、気持ちに微妙に変化がうまれる。
かといって、決心を変えるつもりはないのだけれど。
きっといざ預けるときには、色々考えちゃうんだろうな。心のすきをつかれた感じ。

きっとここに描かれているのは私、らが赤ちゃんだった頃の男性が外で働き女性は家を守るという考えがごく当たり前だった頃には、ほとんど考えられなかった風景なのだろう。

では絵理子が成長して子どもを育てるようになった頃には、どういう風景が展開されるようになっているんだろう。